POOL vol.011

空が焼けて見える時間が好きじゃなかった。そう、不機嫌だった。
理由はあったのかもしれないけど自分ではその不機嫌を自覚出来ないでいて唐突に他人から言われて気がついたくらいだから当然原因なんてわからない。
今でこそ雨降る日の情景がどうとか曇り空が一番落ち着くだの言える年齢になったみたいだけど昔はぱっきりと空は青くて高いのが好きだったんだきっとわたしは。
だから空がなんとも微妙な色合い、それもちょっと苦手な赤に近づくと気分がもやもやしていたのかもしれない。
そんな自分があるとき旅先で夕焼けを見ながらビールを飲みたいと言ったのだ。
ふだんアルコールは殆ど飲まないくせに日常から遠く離れた港町の雰囲気にのまれて何かいつもと違う事をしたくなったのだと思う。
売店にあったビールはとても飲みやすくて美味しくて、埠頭で感じた匂いは懐かしくて穏やかで、散歩に来ている親子連れの鼻歌はなつかしの聖子ちゃんのヒットソングだし、魚を釣っていたおじさんは腹巻をしているのにシルエットは嘘みたいにドラマチックだし、わたしの旅はもう楽しくて嬉しくて美味しくてびっくりで、そう、なんだかとっても上機嫌。
上機嫌のわたしの目の前に広がるのは雲を真っ赤に染めながらずっとずっと遠くまで続いている美しすぎる夕焼けだ。
嫌いが好きに変わった瞬間だ。


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